龍翁余話(486)「ハワイで太極拳」(拡大版)
テレビの中国取材の番組で、公園や広場で数人(時には数十人)のグループが、ゆったりした動きの体操をしているシーンを視ることがある。この“ゆったり体操”を『太極拳』と言うことは知っていたが、翁自身、やったこともないし興味もなかったので『太極拳』が何たるか(その歴史や思想・技法・効果など)を知ることもなかった。ところが、7月のハワイ旅行の際、翁のファミリーから「TAICHI(タイチ)に行きませんか」と誘われた。「TAICHIって何だ?」インターネットで調べたら『太極拳』のことをアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアなどの英語圏ではTAICHIと言う、と出ている。翁、最初は「いや、老体を痛めたらゴルフが出来なくなるのでノーサンキュー」とお断りしたが、「老体を健康体にするためのエクササイズ(運動)ですから、きっと、ゴルフにも役立ちます」――ゴルフに役立つなら、と、気持ちを動かされて某日の夜、カイルアの街へ出かけた。カイルアは美しいビーチのほか、おしゃれなファッション、美味しいグルメショップが立ち並ぶ観光地として、近年、やたら日本人観光客にもてはやされている。翁も以前から知っていて、この街の落ち着いた雰囲気が好きだ。TAICHIの会場は、そのカイルア・タウンにある本願寺(浄土真宗)ホール。後でも述べるが翁がインターネットで調べた『太極拳』は、もともと中国の三大思想(仏教・道教・儒教)などが融合して出来た思想だそうだから“寺と太極拳”の組み合わせはピッタリだ。
さて、TAICHI会場のカイルア本願寺へ出かける日、翁、朝からインターネットで「太極拳とは何か」をにわか学習したが、これが、なかなか難しい。前述の“中国の三大思想の融合”などと言っても直ぐには分からないし、道教の経典の中に出て来る“呼吸法”や“氣”の理論だって、そう簡単には理解し難い。もっと、翁の頭の中にすんなり入り込む(分かりやすい)説明はないか、と、あれこれ調べて見たら、あった。「中国・明の時代(日本では室町〜安土桃山時代頃)、陳何某が(敵から)村を守るために考案した武術(陳式太極拳と言う)を源流とし、その後、楊式太極拳、武式太極拳、孫式太極拳、呉式太極拳が生まれた」。『太極拳』は確かに伝統武術ではあるが、近年は「その柔軟な動作が老若男女、虚弱者の鍛錬に適しているので、武術としてより健康法として日本をはじめ世界各国に普及されている」と説明されている。
“太極拳思想”(理念)は、とうてい付け焼き刃的学習では理解し得るものではないから、(翁が、もし今後『太極拳』に魅力を覚え、本格的に挑戦しようと思うようになったら)実践を積み重ねながら思想を学ぶことにして、今夜はとりあえず“体を動かすこと(『太極拳』的に運動すること)に必要な”要素“を頭の中に入れてエクササイズに臨むことにした。それとて頭が硬くなっている翁には、そう簡単にインプット(入力)出来るものではないが、とりあえず『太極拳』に近づくには、せめて概要くらいは知っておきたいと思ったからだ。
翁は、まず『太極拳』(運動)を構成する4つの要素“意・気・型・呼吸法”に注目した。“意”は、体を動かすための脳からの指令の役割。“氣”は、勿論“気力”、この2つは何も『太極拳』に限ったことではない。我々が勉強や仕事、趣味など、何らかの行動を起こそうとする時、まずは“意志”と“気力”が伴う。その次に“目的行動”が発生するわけだが、『太極拳』など武術には“型”が重要な要素となる。いや“型”もまた武術ばかりではない、翁の趣味であるゴルフだって“正しい型”が求められる。ここまでは翁にも理解出来た。次は“呼吸法”だ。この“呼吸法”は理屈ではなく運動の実践を通して会得するもの、と翁は思うので“呼吸法”理論は省略するが、この“呼吸法”も『太極拳』に限らず、あらゆる場面(人間が行動を起こす場面の間合い)に役立つ。
『太極拳』は、<套路>(とうろ)、<推手>(すいしゅ)、<散打>(さんだ、散手(さんじゅ)とも言う)と進むのが『太極拳』の達人になるための進路だそうだが、一般的な健康促進の『太極拳』は<套路>を指す。つまり、立ち方(姿勢)、歩き方、攻撃方法、防御方法、呼吸法、運気法(気功)などを総合的に盛り込んだ一連の身体動作のこと。それらを(まるでスローモーションのように)ゆっくり演じる。これなら翁にも出来そうだ、と思って、いよいよ(定刻の夜7時)カイルア本願寺ホールへ入る。
先生の名はマイケル・デイヴィス(Michael
Davis)(上段写真左)、通称はマイク。米国オハイオ州の生まれ。年齢は60歳代だが見かけは若い。やはりTAICHIで鍛えているからだろう。マイクのTAICHI歴は44年(教授歴40年)、流派は(前述の)“楊式太極拳”。「カイルア本願寺TAICHIサークル」の始まりは3年前(2014年10月)、発起人はデネス・タシロ(Dennis
Tashiro)(上段写真右の中央)。デネスは当カイルア本願寺のプレジデント(日本の檀家総代に該当する)。だから当本願寺ホールをTAICHIの鍛錬場にすることが出来た。実は、デネスは、翁がハワイでお世話になっているT・ファミリーのリーダー格。そして、マイクもまた(翁と同じく)T・ファミリーのメンバーなのだ。つまり、マイク先生と翁は旧知の仲。だから、翁に対する教え方も実に親切。「グッド、グッド」と褒めてくれる。調子に乗って約1時間、(老体であることも忘れて)懸命に“先生の型“を真似ながら(『太極拳』風の)運動に励んだ。終わった後の気分は爽快だった。しかし、いきなり無理をしたので多少、脚(膝)を痛め、翌日のゴルフを中止した。それも2日目には治った。そこで3日後の夜、再挑戦をした。今度は(膝も)大丈夫だった。『太極拳』を身近に感じるようになったことは言うまでもない。
ところで、翁が時々行っている電位治療の場所でスタッフから“血流”(血の流れ)の話をよく聞く。「血流が全てを解決する」と言い切る医学博士もいるそうだ。季節によって血流が悪くなり、体や頭がダル重かったり疲れやすくなったり(これという病気ではないけれど)体の不調を感じることがある。そういう不安定な状態を東洋医学では“未病”と言うそうだ。その”未病“は、いずれは”本病“を引き起こす。「体の健康づくりの3原則は食事・睡眠・運動である。中でも血流促進のために”有酸素運動“が不可欠」と言う。
『太極拳』は、ゆっくりと身体を動かしながら全身の筋肉を使い、意識的に腹式呼吸を行なうので全身の細胞を活性化させる有酸素運動の役割を果たす。つまり『太極拳』の第1は「血流をよくすることで体内の内臓や器官に働きかける“経路”を刺激して体の芯を整え“未病”の改善を促す」と言われている。ほかに、美肌・ダイエットなど美容効果も期待出来る、とある。女性の『太極拳』愛好者が多いのも頷ける。
帰国の際、マイク先生の“模範の型”を収録したDVDを頂戴した。(前述の)「老体を健康体にするためのエクササイズ(運動)だから、きっと、ゴルフにも役立ちます」のお誘い言葉が耳にこびりついているので、先日、そのDVDを視ながら独りで演じてみたが、正直、翁は独りで演じられるレベルではないので、やはり、どこかのクラス(サークル)に入って定期的に指導を受けるのがいいのだろうが、その機会が得られるかどうか。ゴルフのためばかりでなく、有酸素運動で血流促進を図り健康づくりに挑戦したい意欲はある・・・
っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。(<お詫びと訂正>前号「クアロア・ランチ」の文中【1853年、第13代将軍・家定の代、ペリー率いる黒船が浦和に来航・・・】と書きましたが、浦賀の誤りでした。お詫びして訂正いたします。) |