神様の果物 柿
“日本人の家には大抵、柿の木があったのよ”そうLAに住む日系人の人が教えてくれた。特にこのサウスベイのガーデナ地区やトーランス地区の住宅を歩いていると玄関先に松の木の盆栽や石の灯篭などが飾られていて、かつては日本人が住んでいたらしき面影のある家が多くみられる。そして裏庭の方には大きな柿の木があったりする。
日本の秋の風物詩には欠かせない柿。祖国を離れて日本を懐かしむ気持ちがあったのだろうか…日本の古事記や日本書紀にも柿が登場していたそうで柿と日本人の関わり合いは長い歴史があるようだ。学名ではディオスピロスカキと言うのだそうでギリシャ語でディオスは神、ピロスは果実そして和名のカキが使われている。神様の果物と言われるくらい美味しく栄養価の高い食べ物なのだと改めて柿に興味が出てきた。昔から日本の諺で “柿が赤くなると医者が青くなる”と言われている柿の栄養を調べてみたらビタミンC、カロティン、ファイバー、ミネラルも豊富で最近言われているファイトケミカル(免疫力、抗酸化力)が高い果物なのだそうだ。
英語で柿はパーシモンなのだが最近はファーマーズマーケットでも和名でカキと表示されているのを見かけるようになってきたので嬉しい。
昔は植物の種もわりと自由に米国に持ち込めたらしい。戦前や戦後間もない頃いろんな植物の種や苗木を日本から持ってきたと聞いた。私のクライアントさんの家の庭にも50数年前に父親が家を購入した時のお祝いに買ってくれたという柿の木が大きく育っていた。毎年秋になるとその柿の木は、たくさんの実をつけるようになったと言う。
何て素晴らしい贈り物だと思った。どれだけの人がこの一本の柿の木から恩恵を受けた事だろう。3か月前、クライアントさんの家の柿の木は青い実からようやく黄色に色付き始めた頃で所々オレンジ色に熟し始めたものをリスが来ては、せっせと食べていた。
もう、そろそろ柿を採った方がいいのでは?と私が言うと ” いやいや、まだまだ、柿は木で充分熟してからの方が美味しいし、それを半生状態で乾燥させるともっと美味しくなるのよ ”と言っていた。
今年も遠くの州に住んでいる妹さんに送るのだと柿を乾燥機でゆっくり8時間かけて
半生状態の干し柿を作っていた。その熟した生の柿を頂いて食べたらトロリと甘く滋味溢れる味がした。昔、子供の頃に八百屋で一山いくらかで売っていた柿の味はこんな味だったかな…と。昨年東京で食べた柿は一個が100円から500円もしていた。
3か月ぶりに、その家の柿の木を見上げたら今度は鳥たちが熟して柔らかくなった実を突いて忙しそうに食べていた。”もっと柿を採りたいけれどあんな上の方は採れないし主人がいなくなった今は誰も採れる人がいないから、鳥にあげるしかないわ” と彼女は残念そうにその柿の木を見上げていた。先週雨が降って柿を採る事が出来ないでいるうちに今週は、もう、だいぶ柿の実が少なくなっていた。隣の家の庭を見ると関心が無いのか誰も採る人がいなくなってしまったのか全く柿を採っている気配はない。そして、そこは鳥達のパラダイスになっていた。そんなふうにほっておかれている柿の木をあちこちで見かける。せっかく1年に1度実を付けてくれるというに柿の木に何だか気の毒なような、もったいないような気持ちになった。
ところで柿とミルクだけで作るプリンを今年初めて頂いて食べたら最高だった。柿のペクチンとミルクのたんぱく質がゼラチン無しでも、いい具合に固めてくれるのだ。柿の半分の量のミルクをブレンダーかミキサーで良く混ぜて冷蔵庫に入れておくだけで出来上がり。栄養満点のお勧めデザートだ。 神様の果物の柿にしばらく、はまりそうだ。
茶子 スパイス研究家 |