最近の新聞報道によると、アメリカでの銃所有率が増加しているのだそうです。アメリカ・ギャラップ社が発表した「銃器」に関する最新調査によると、昨年(2011年)10月に全米各地で無作為に選ばれた1005人を対象に電話で行われた結果、「自宅など住居や敷地内に銃を所有している」と答えた人は男性が52%、女性は43%だったそうです。
男女ともに前年にくらべて増加しており、特に女性は前年から7ポイント増(前年:36%)となっているのだそうです。また男性も同じく7ポイント増(前年:45%)であり、どちらも私たち日本人には考えられない数字です。また、自家用車内などの銃の所持に関しては男性の46%、女性の23%が所持しているのだそうで、男女間で差があったとはいえ、これまた信じがたい数字です。
統計によると、アメリカ合衆国では一日あたり10数人の子供が銃で殺されており、暴発等の事故によるものも含めると、銃による子供の死亡率はアメリカがダントツの世界一となっているのだそうです。
子供がこれほど多く銃の犠牲になっているということは、一般成人の銃に絡む悲劇は数知れません。昨年1月にはアリゾナ州ツーソンのスーパーマーケット前で男が銃を乱射し、連邦判事と9歳の少女を含む6人が死亡、12人が負傷し、同州選出のガブリエル・ギフォーズ下院議員が頭に銃弾を受け、重体になった事件がありました。(ギフォーズ議員は一命はとりとめましたが、今年1月、治療に専念するため議員を辞職しました)
このときもアメリカ国民の間から銃規制の強化を求める声があがりましたが、実質的には何の進展もありませんでした。今回の調査でも、回答者のおよそ四分の三が銃所持を禁止する法律には反対だと答えています。
日本のように一般人による護身用の拳銃等の所持を一切認めない国に住む日本の皆さんからすると、まことに理解に苦しむところでしょう。アメリカで銃規制の強化が進まない大きな理由としてよく挙げられるのは、全米最大のロビー団体である
N.R.A.(全米ライフル協会)の圧力であり、折角、銃規制強化法案が議会に提案されても、審議はいつも腰砕けで終わってしまうのがこれまでの常となっています。
では、何故彼らはそんなに力を持ち得るのか。それは当然ながら強固な組織力と豊富な資金力を背景にしているからでしょうが、その前提として存在するアメリカという国家の成立過程と広大な国土を抜きにしては考えられないようです。
現在のアメリカ合衆国は
235年前にイギリスから独立を勝ち取った際、民衆の一人一人が銃を手に戦った歴史から始まっています。さらにその後の西部開拓ほか広大な土地を守ったのも民衆であり、この辺が日本と大きく違うところです。
アメリカ国民にとって我が身は自分で守るという伝統は建国以来のものであり、そう簡単には放棄するわけにはいかないものがあるようです。
合衆国憲法にも次の通り規定されています。
『規律ある民兵は、自由な国家にとって必要であるから、人民が武器を保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない』(修正憲法第二条) |
もっとも、上記憲法の条項は、あくまでも「各州が持つ州兵の武装を認めたもので、一般市民の武器保有を認めているものではない」とする解釈が主流なのですが、それにしてもこの国のあり方をよく示していると思います。
このような歴史などを背景にN.R.A.を中心とする銃規制反対派は、「銃は人の命を守るもの」、「銃のある社会こそが最も安全で安心な社会」という主張の展開を可能にしているのでしょう。これらの主張は、私達日本人からすると詭弁以外の何ものでもありませんが、大方のアメリカ人にとっては決して詭弁ではなく、彼らの歴史的・地理的発想からすれば体験的実感であるのかもしれません。
また、現実問題として、私などがアメリカ大陸をドライブしたとき、果てしないデザート(荒野)が続き、家も人も車もほとんど見かけないことがしばしばです。こんな荒野で万一にもギャング団に遭遇したら我が身を守るのは自分だけということを実感させられます。
銃規制強化を叫んでいる銃規制派の人々ですら、一般市民の銃所持を認めないと主張している人はあまりいないそうです。アメリカ人の大多数は、自衛のため銃所持は必要なことと考えているようです。だから彼らの主張は「銃の撤廃」ではなく、あくまでも「規制による犯罪と事故の防止」であることです。「自動車は事故を起し、人を殺すからといって、自動車を禁止するのは正しくないのと同じである」という発想です。
殺傷が目的である“銃”を“自動車”を同列に論ずること自体、私達日本人の発想からすると、これまた詭弁に聞こえますが、これも背景の相違とでもいうのでしょうか。
アメリカには銃規制に関する連邦法として「ブレディ法」という法律があり、また州ごとに異なった法律があります。カリフォルニア州は銃規制の厳しい州といわれます。
アメリカでは過去10年間、毎年3万人から4万人の命が銃による犯罪・事故により失われているといっても、数年前まではこれら事件は一部のギャングがはびこる特定地域内の問題といわれてきました。しかし、近年は普通の高校や一般市民が住んでいるところでも銃犯罪が発生するようになっています。最近のように経済・景気が悪く、失業率が高いとなおさらです。銃社会アメリカの行方は注目に値するでしょう。
河合 将介( skawai@earthlink.net ) |