前々回のこの欄でも書きましたが(Zakkaya Weekly
No.652『フェアネスと大統領選挙結果』)、今回のアメリカ大統領選挙の結果、黒人系のバラク・オバマ氏が見事当選に必要な代議員数を獲得し、次期大統領になることが確定したことはアメリカの歴史を大きく変える節目となるまさに歴史的な出来事として後世に記憶されることになるでしょう。
選挙直後にいくつかの会合で私が聞いた日米の友人知人が発したコメントの多くは「まだ、信じられない!」という言葉でした。投票日前の予想ではオバマ氏(民主党)の優勢が伝えられ、主要対立候補であったマケイン氏(共和党)との間で10ポイント以上の差であったことから、選挙結果でオバマ氏が勝利したことは予想通りの帰結であり、「信じられない!」という言葉などありえないはずなのに、です。
かく言う私自身も11月4日(投票日)の夜、テレビの開票速報が刻々と流す州ごとの結果色分けと、民主党優勢の数字(代議員数)を確認しながらも、最後の最後まで「本当なのかしら?」との思いでした。
過去8年間の共和党政権に対する救いがたい不人気と、未曾有の金融危機という与党(共和党)に対する超逆風が民主党に対して大いに利することになったとはいえ、アメリカ合衆国にこれほど早く白人以外の大統領誕生が実現するとは、とても理解しがたいことだったからです。私も改めてこの国の変化と現実対応力に感動した一人です。
もっともオバマ氏は黒人系といっても母親は白人であり、奴隷の子孫でもなく、自身も選挙運動期間中、アメリカ合衆国の代表として人種や党派の違いを超えた「統合」を訴え続け、国民の共感を得るように努力していましたので、決して黒人の代表ではありません。
ところが、今回の選挙の結果、主要メディアはいっせいに「合衆国史上、初の黒人大統領誕生」と報じました。米国民の意識が時代とともに変化してきたとはいえ、この国には建国以来、簡単には流しづらい差別の歴史があり、特に黒人に対する偏見・差別の意識の存在も認めざるをえないところです。
アメリカには嘗て「ワン・ドロップ・ルール」という考え方があったと聞いています。南北戦争ののち、多くの南部の州では白人と黒人の差別を徹底させるため、「黒人」の定義として「一滴でも黒人の血が混じっていると黒人とみなす」とされ、これを「ワン・ドロップ・ルール」と呼ぶのだそうです。オバマ氏もただ外見が黒人という理由だけでなく、このルールが暗黙のうちに適用されているのかも知れません。そういう意味ではこの国の黒人差別はそう簡単には卒業できそうにありません。まだまだ時間が必要なのでしょう。
それだけに、又はだからこそ、今回の黒人系大統領の誕生は歴史上の画期的な出来事と言えるのではないでしょうか。
新聞報道によると、米大統領選挙が終わって10日以上経ってもニューヨークのハーレム(黒人街)では、黒人のオバマ上院議員が勝利したことに、まだ、半信半疑の人が多いのだそうです。「時折、ほおをつねって、夢でないことを確認している」、「票を数えなおしてみたら、実は結果が逆転するのでは」との声すら聞こえるとのこと。それほどここの黒人たちは米社会に根強い不信感を抱き、「白人はみな人種差別主義者で、黒人候補には決して投票しない」と思い込んできたようです。長年の人種差別意識もオバマ氏の勝利で、こうした相互不信の解決の一歩になって欲しいものです。―-―- 次号へ続く ――― 河合将介(skawai@earthlink.net) |