龍翁余話(660)「冬場に多い入浴時の死亡事故」
“コロナ騒動”の影に隠れて、あまり表沙汰になっていないが、もう1つ“危ない話”がある。それは、このほど政府(厚労省)が発表した『冬場に多い入浴時の死亡事故』である。確かに、これまでに翁の身内や友人、知人の中で入浴時に亡くなった人が8人いる。実は翁の兄も風呂場で亡くなった(2002年、71歳だった)。厚労省の統計によると入浴時に何らかのアクシデントで命を落とす人の数は、年間約1万9000人と推定されている。そのうち9割以上は65歳以上の高齢者、とりわけ75歳以上の後期高齢者の死亡率が高く、特に冬季に増える傾向にあり、多くは入浴時の急激な寒暖差により血圧が大きく変動して心筋梗塞などを引き起こす“ヒートショック”が原因と見られるそうだ。
“ヒートショック”とは――(厚労省の資料によると)「浴室やトイレは家の北側に作られていることが多く、冬場の入浴では暖かい居間から寒い風呂場へ移動するため(熱を奪われまいとして)血管が縮み血圧が上がる。急いで熱めのお湯につかると血管が広がって急に血圧が下がる。血圧の変動は心臓に大きな負担をかけ、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす危険がある」――『冬場に多い入浴時の死亡事故』の内容を(厚労省の資料に基づいて)もう少し具体的に調べてみた。入浴時の死亡事故は、男女差はないものの年齢別の統計では、はっきりした違いが分かる。65歳から74歳までの前期高齢者が27%であるのに対して75歳以上の後期高齢者は73%と圧倒的に多い。これは(前述のように)血圧調整機能が低下している高齢者ほど入浴時の死亡事故に巻き込まれやすいことを物語っている。
♪いい湯だな いい湯だな 日本人だなア 浪花節でも うなろうかな(歌:デュークエイセス)・・・日本人にとって毎日の暮らしの中で一番リラックス出来るのは風呂かも知れない。心身の緊張がほぐれ、開放感や爽快感が明日への活力に繋がる。しかし高齢者にとっては致命的な落とし穴になりかねない危険が潜んでいることも認識しておかなければならない。その危険とは――(繰り返すが)日本の住宅は冬季に暖房している居間と暖房していない脱衣場や浴室で10度以上の温度差があることも珍しくない。寒い脱衣場で衣服を脱ぐと、その寒さに反応して体から熱が奪われないように毛細血管が収縮する。その結果、血圧が上がり血の巡りが悪くなる。そんな状態で熱いお湯の浴槽に入ると、今度は血管が拡張して血圧が急激に下がり、血液の粘度が増して血管が詰まりやすくなる、つまり心筋梗塞や脳梗塞になりやすい状態になる。(厚労省のデータによると)入浴時の死亡事故の中で最も多いのが循環器疾患(心筋梗塞)で約70%、次いで脳血管疾患(くも膜下、脳内出血など)が約20%となっている。
そこで厚労省では『冬場に多い入浴時の死亡事故』を防ぐために次のような注意事項を提唱している。まず「脱衣場や浴室を事前に暖めておく工夫」、「長湯は控え、お湯につかる時間は10分以内、湯温は41度以下」、「高齢者や血圧の高い人は、“2番湯”がおすすめ」、「心臓に負担がかからないよう、半身浴の習慣を(肩には暖かいタオルをかけるなどの工夫を)」、「体調不良時や食事直後、飲酒直後の入浴は避ける」、「血圧降下剤、安定剤、睡眠薬の服用後の入浴は避ける」、「高齢者の入浴の時間帯は(比較的血圧が安定している)夕方がよい」、「入浴前後には、充分な水分摂取を」、「高齢者が入浴している間は(家族がいれば)こまめに声をかける」、「高血圧・心筋梗塞・脳卒中・てんかんなどの既往症がある人の入浴には、出来れば付き添い人がいたほうがよい」など・・・温度差による“ヒートショック”はトイレでも同じことが言える。したがって脱衣場やトイレには何らかの暖房設備が必要だろう。
翁のマンションは築46年の古い建物だから、風呂場にもトイレにも暖房設備がなく、北側に作られているので冬季はかなり冷える。そこで厳寒の日の入浴時は面倒くさいが脱衣場に置いてある800ワットの電気ストーブで部屋を少し暖めてから脱衣するようにしている。しかし翁は“シャワー党”で、1年のうちバスタブ(浴槽)に入るのは(よほど寒い日に限って)せいぜい3〜4回。それでも高血圧症の翁、厚労省が提唱する“注意事項”は守るように心掛けている。余談だがシャワー温度は、夏場は38度、冬場は43度に設定している。
ところで「入浴はコロナ感染予防にも有効」と言う説もある。以前に小欄(『龍翁余話』)にも書いたが、臆病者の翁、「三密(密閉・密集・密接)回避」「マスク・うがい・手洗いなどの衛生管理」、買い物や散歩はするが基本的には「外出自粛」、たとえ散歩や買い物など、ちょっと外出しただけでも玄関に置いてある除菌スプレー、指消毒液などで基本的な予防には努めているが、ある資料によると、我々は無意識のうちに髪や顔など体のさまざまな箇所を触っており、ウイルスが付着する確率が高いそうだ。そこで「入浴はコロナ感染予防に有効」の話だが、とにかく「風呂で体温(深部体温)を上げることで免疫力が高まる」、「湿度をあげることで鼻や喉の防御機能が高められる」、「湯気を吸いこむことで鼻や喉の粘膜に付着したバイ菌を洗い流してくれる」・・・それを聞いてヒマ人の翁、1日在宅の場合は(昨年の夏場は)朝・夕の1日2回のシャワー、昨年の秋口から今に至ってはさすがに寒いし面倒くさいので1日1回(夕方)のシャワーで済ませている。その代わり、外出から帰宅したら(お湯で)必ず手・指・顔を洗うようにしている。勿論、うがい、手(指先)の消毒は、在宅中でも外出先でも帰宅してからでも頻繁に行なっている。
コロナ感染拡大が止まらない。「緊急事態宣言」が再発令された。更なる“外出自粛”が求められる。“おうち時間”が増えると入浴回数も増えるだろう。「コロナ感染予防にも有効」を信じて、前述のように脱衣場の温度、湯温、入浴の仕方と時間などに気を付けて入浴を楽しむのも「新しい生活様式」の1つかも知れない。但し、高齢者の『冬場に多い入浴時の死亡事故』の現実を踏まえて・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。
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