お留守番
ある晩、部屋をトントンとノックされた。急ぎのメールの返事を書いていたので無視していたら今度はカリカリとドアを引っ掻いている音がした。それでも無視していたら“みゃ〜お、みゃ〜お”と、かまってコールが始まった。大抵の人はその甘えた声を聞いたら、ついドアを開けてしまうのだろうな〜と思う。かまってコールのその声はハウスオーナーが一番、溺愛しているロッキー君の声だった。いつも、撫で撫でしてもらっているオーナーが旅行中なので寂しいのだろう。部屋のキッチンやリビングルームやトイレに移動する度についてくる。いつも家にいるハウスオーナーと違って私は朝出かけたら夕方まで帰ってこないので、なおさら退屈なのだろう。部屋の前でドアをバシッと閉めると、その前でじ〜っと待っている。朝起きてドアを開けると、そこに黒い塊のような猫が待っている。昔は黒かったらしい髭も今は白くなってドテっと座っている姿はアザラシのようだ。そして実に姿に似合わなく、かわいい声で甘えて鳴く。昨日、バストリップに出かけているハウスオーナーからメールがあった。
今はイエローストーンだそうで、バッファローが移動する所も見たそうだ。
私は毎日、猫の様子と写真をメールで送って生存確認をお知らせしている。なにしろ18年も生きている猫が2匹と8年の猫が一匹なので、いつ何があっても不思議ではないらしい。そんなわけで、さぞかし心配だろうとオーナーに毎日メールをしている。
それにしても人間と同様に猫も様々な性格がありウマが合うのもいれば、合わない奴もいる。このアザラシ猫には、いつもストーカーされているが一番やせているミノ君、ことウナギ猫はご飯を食べたら知らんぷり、呼べば来るけれど自分からは殆ど来ないので、うっとおしくなくていい。いつもガラス越しに庭を熱心に眺めて時々飛んだり跳ねたり喋ったりしている。一番好奇心が強く身のこなしが早く活発なのが、このウナギ猫だ。
この猫の頭を撫でていると、すぐに駆け付けて“我も”と頭を突き出してくるのがアザラシ猫だ。その様子をじっと遠くから眺め近寄ってこないのがグレーの一番若い太っちょ猫だ。前回のエッセイでも紹介したけれど、この猫が唯一、この家に自分から押し入って住み始めた猫なのだ。結構、頑固でハウスオーナーの寵愛を受けているアザラシ猫のポジションをいつも狙っている。時々、アザラシ猫の座るソファーのポジションからどかずにハウスオーナーから怒られている。性格がひねくれているのか、呼んでも食事には現れず、後からこっそり来てムシャムシャガツガツ食べている。
茶子 スパイス研究家 |