龍翁余話(509)「高齢ドライバーの運転免許証返納が進む」
高齢ドライバー(特に後期高齢者)の自動車運転免許証の自主返納が進んでいるそうだ。警察庁の発表によると、昨年1年間に運転免許証を自主返納した人は42万2033人、そのうち75歳以上の後期高齢者が約6割の25万2677人、いずれも1998年の(返納制度)導入以来、最多だったそうだ。やはり、昨今の「高齢者による運転事故(しかも死傷事故)の多発で本人の自覚と決断、家族での話し合いによるものだろうが、加えて、75歳以上の高齢ドライバーに対して昨年3月施行の道路交通法の改正で“認知機能検査”が強化され、“認知症の疑いのある人”には、医師の診断が義務付けられるようになったことも(免許証返納に)拍車をかけている、と警察庁では分析している。
平成28年中の自動車(普通)免許保有者を調べたら男45,255,994人
、女36,949,917人の合計82,205,911人(総人口の約64%)。65歳以上(高齢者)の保有者は男11,186,957人
、女6,493,430
人の合計17,680,387(65歳以上の人口35,061,000人の約50%)。75歳以上の後期高齢者の保有者は男3,805,776
人、女1,323,240 の合計5,129,016
人。(75歳以上の人口約17,470,000人の約29%)。ちなみに都道府県別で運転免許保有者(数字は
省略)のうち、後期高齢者(75歳以上)ドライバーが占める割合を見ると、長野、島根、宮崎、山形、高知、鹿児島などが高く、(意外なことに)千葉、兵庫、愛知、埼玉、福岡、宮城、神奈川、大阪、東京の後期高齢者ドライバー比率が低い。理由の1つには、やはり公共交通機関が発達している地域での“後期高齢者ドラーバーの運転免許証返納”が進んでいるのではあるまいか。
一方、内閣府が行なった「運転免許証自主返納に関する世論調査」の結果(概要)を拾ってみると(1)「運転免許証の自主返納制度を知っていますか?」について「知っている」が93.2%、「知らない」が6.8%。(2)「どのような時に、運転免許証を返納しようと思いますか?」について「自分の身体の劣化を感じた時」が64.8%、「家族や友人、医師などから勧められた時」が35.2%。*この回答欄に「高齢者運転による事故多発に影響を受けて」という回答欄が無いのは何故だろう。翁が、あれほど好きだったドライブを、昨年11月で諦めた(愛車を手放した)主要因は「身体の劣化」より「高齢者運転事故多発ニュースによって考えさせられる“高齢故に、いつ突発するが分からない不測の事態”を避けるための“転ばぬ先の杖”であった。その回答欄が無いのは“設問”の不備と言うべきであろう。(3)「運転免許証を返納したあと、代わりに“運転経歴証明書”を(返納者が)貰えることを知っていましたか?」について「知っていた」が52.9%、「知らなかった」が47.1%。
(4)「今後、安心して運転免許証を返納するために何が重要だと思いますか?」について(複数回答)「電車やバスなどの公共交通機関の運賃無料化または割引」64.9%、「地域における電車やバスなどの公共交通機関の整備」59.4%、「買い物宅配サービスの充実」47.1%、「医師や看護師などによる定期巡回診療サービスの充実」43.1%などの要望が目立つ。前述の都道府県別で運転免許保有者中、後期高齢者ドライバーが占める割合でも明らかなように、東京、千葉、埼玉、神奈川、愛知、大阪、福岡など公共交通機関が比較的整備されている都市部での“老人ドライバー”の減少状況が(問4の回答)「地域における電車やバスなどの公共交通機関の整備」(の要望)59.4%にも表れているように思う。
確かに、高齢者にとって足(車=運転免許証)を奪われることは極めて深刻な問題である。
翁のように(車を手放す直前まで)「俺の自動車運転能力は、いささかも低下していない」との思い(過信)が強く、(車を手放すことに)大いに悩み葛藤を繰り返した。ある調査によると、75歳以上のドライバーに「あなたは自分の運転能力(技術・体力・知力)に自信がありますか?」と訊ねたところ、53%の人が「自信がある」と答えたそうだ。本当に(客観的に評価して)優れた運転技術を持っている高齢者ドライバーもいるだろう。が、中には「今まで運転して来て、たいした事故も起こしていないから俺だけは大丈夫だ」と(翁がそうだったように)自己判断(過信)で自分の運転能力を過大評価している人も少なくない。また(これも翁がそうだったように)「とにかく車が好き、ドライブが楽しくって仕方ない、心のうさ(憂さ)も吹き飛ばしてくれる、まさに車は我が余生を支える“相棒”だ」という情感(感傷)と「俺は大丈夫」の過信が免許証返納を躊躇させる要因でもある。
「免許証返納」後の“心理的ダメージ”から生じる高齢者の生活の変化も考えなくてはならない。よく言われていることは、外出の機会が減り、会話が無くなり、テレビ漬け。散歩も億劫がって、(運転していた時より)だんだん足腰が弱まり、老化が顕著になる。翁はもともと独居老人だから(家での)会話は無いしテレビはよく視るほうだし、時々、散歩はするが、それは“健康のため”ではなく“気分転換”(時には『龍翁余話』のネタ探し)の散歩だ。つまり、外形的には車が無くなっても、さほどの変化はない。が、心のうちは、実は、まだ“寂しさ”が尾を引いているのだ。そんな思いまでして翁が車を手放したのは「運転による死傷事故を起こせば、人さま(世間)に迷惑をかけ、自らも犯罪者になって80有余年の我が生涯が“無常の風”に吹き曝され、悲惨な終焉を迎えることになる、その“哀れ”だけは避けたい」一心を(車を手放す)決意の最大理由にしたからだ。
(前述のように)運転免許証の自主返納者には(一生使える身分証明書の)「運転経歴証明書」が貰える。その「証明書」によって幾つかの特典が受けられる。例えば(都道府県によって多少は異なるが)「バス・電車料金が割引または無料」、「タクシー料金が10%割引」、「イオン・イトーヨーカドーでの格安配送」、「銀行での預金金利アップ」、「メガネ・補聴器の10%割引」、「三越・伊勢丹・高島屋での買い物が無料配送」など。魅力的ではあるが翁の免許証の有効期限は2020年4月まで。その後、果たして「免許証返済」をするか否か、今は(車は無いが)“免許証”への未練たらたら・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |