♪〜クリスマスが今年もやってくる 悲しかった出来事を消し去るように さぁパジャマを脱いだら出掛けよう 少しずつ白くなる 街路樹を駆け抜けて〜♪、ケンタッキーフライドチキン・ジャパンのコマーシャルソングにも起用されている竹内まりやの『すてきなホリディ』が、飛行機を降りゲートを出て隣を歩く人のスマホから漏れ聞こえた。その日は、私が(ケンタッキーフライドチキンの産みの親、カーネル・サンダースの生まれ故郷)ケンタッキー州からミネアポリス経由で羽田国際空港に降り立った日だった。ケンタッキーに見送られ、そしてまた日本でもケンタッキーに迎えられた思いがした、今年11月23日の事だった。
日本時間10月28日の夜遅く、太平洋の向こうから訃報を受けた私は、11月15日に米国・ケンタッキー州ルイビル市へ飛んだ。今から30年程前、私を家族の一員として受け入れてくれ、約2年間も一緒に住まわせてくれたホストファミリーのご主人、Mr.
Olvis
Spencerが亡くなったからだ。私の最初のアメリカ大学での学びとその生活を支え導き、そして、その後も(現在も)、家族同様の関係・付き合いを変わらず続けてくれているスペンサー家(当時長男は14歳の高校生、長女は12歳だった)。日本の葬儀に代わるメモリアルサービスに、家族の一員として参列するために「来てほしい」というホストファミリーの言葉と、「行っておいでよ」という主人の勧めに背中を押され、「じゃあ、ちょいと、行ってくる!!!」っと、飛んで行き、飛んで帰って来た。ケンタッキー州ルイビル市、スペンサー家の家族と親族、そしてスペンサー家の友人たち、まさに17年ぶりの帰還(帰省)と再会。それぞれが年月を経てそれなりの変化があるとはいえ、最初に会ったあの頃と、最後に別れたあの頃と、そして17年ぶりに再会した今回と、全くと言っていいほど変わらない“貴い出会い”、そこには家族愛・友愛とも言うべき“愛”が充満していた。タイムマシンにでも乗って集まったような錯覚さえ感じる。違うのは、集まった家族の数が増えたこと。それもまた家族の幸せの数につながっていて、恵みを数えるような感じさえした。私の心が、まだ、このケンタッキー州に、そしてアメリカにあることに、私自身驚かされたひと時でもあった。
ところで、留学や海外赴任をしたことのある人は誰しも、多かれ少なかれ、こんな出会いの体験をし、言葉や慣習の違いを超えて、いや違いがあるからこそ、貴重な絆が結ばれるだろうと思う。だから、決して珍しいことでもなく、多くの人が色々な形でこのような物語を生きていると思う。私も同様に、渡米して最初の2年間を彼らと過ごしたわけだから、“三つ子の魂百まで”とあるように、アメリカは中西部に暮らす中流社会の生活、習慣、伝統文化、マナーやエチケット、倫理観、家族観や宗教観、教育理念やプライオリティ(優先順位)などを当初から体感した。特にスペンサー家は“良きアメリカ時代の教育と指針”を持った夫婦・家族だったので、何事にも大きく偏らず、1本の、何か“アメリカらしさ”のようなものが貫かれていたため、沢山のことを学ぶことができた。1つ屋根の下で365日寝食を共にし、夫婦の娘息子と同様に生活したのだから、全ては自然体であり、勿論、私自身もそうだった。私の中に、アメリカをこよなく恋しく懐かしく思う強い気持ちがあるのも、アメリカの良き家庭教育や夫婦の向き合い方、関わり合い方の見本的なフォームがあるのも、そして、やはり“いい出会い”があり、共に時を過ごしたという貴重な経験によって培われた私の自負心、それらは、みんなみんなこのファミリーが見せてくれた、教えてくれた、導いてくれたものだったと再認識できた。これはスペンサーが残してくれた置き土産。さらに、最初に出会った頃には思春期で反抗期の青年だった子どもたちが、それぞれ結婚し3人ずつの子どもの親になっている。私は、そんな彼らの成長ぶりを見ることができたことも嬉しかった。これもまたスペンサーが残してくれた置き土産だと思う。
“サンクスギビングデー”(感謝祭=11月第4木曜日)直前のケンタッキー州は、東京より先に冬を迎えていて、あの有名なブルーグリーンの芝も霜で真っ白なほど寒いものの、心は温かさで満たされていた。「私の第二の故郷ここにあり、私の心と共に」と想いながら、私はケンタッキーを後にした。
さて、日本人でも馴染みの深い歌『My Old Kentucky
Home』は、ケンタッキー州の州歌でもあり、歴史的にも文化的にも周知の歌であるばかりでなく、私にとっては、“ふるさと”の歌だ。この歌を聴いたり歌ったりすると、あの美しいブルーグラスのケンタッキー州の風景と、そこに住む“同郷”の家族・友人たちの姿さえみえてくるようで、感激と哀愁が混在し涙してしまう。ここに、その歌詞の一節を追記し、私の心にも刻みたい。そして、“私の愛するふるさと、ケンタッキーの我が家”へまた、すぐに、戻って来たい、みんなが待ってくれているうちに・・・っと呟く、さくらの独り言。
『My Old Kentucky Home』
The sun shines bright in my old Kentucky Home,
Tis summer, the darkeys are gay,
The corn top’s ripe and the meadow’s in the bloom;
While the birds make music all the day,
The young folks roll on the little cabin floor,
All merry, all happy, and bright,
By’n by hard times comes a- knocking at the door,
Then my old Kentucky Home, good-night!
Weep no more, my lady,
Oh weep no more today!
We will sing one song for the old Kentucky Home,
For the old Kentucky Home, far away. |