交通手段を自動車に頼る比重の高い当地ロサンゼルスとその周辺ですが、最近のニュースによると、全米の交通渋滞ランキングでロサンゼルスが全米で最悪の都市であると報道されました。これは交通情報などを提供する会社が公表したもので、ロサンゼルスの運転者が交通渋滞に費やす時間は年間81時間と全米で最悪だったそうです。
最近、ロサンゼルスとその周辺は自動車による交通渋滞対策として、通勤用の地下鉄やメトロなど、鉄道の建設に力を注いでいますが、まだまだ自動車社会です。
ロサンゼルスの交通手段は古くは馬や馬車だったものが、その後は日本より早く車社会が到来してしまい、鉄道普及を止めてしまった歴史があります。
19世紀中ごろにカリフォルニアは金鉱の発見によって一躍ゴールドラッシュとなり、人口は急増しました。これに伴い鉄道が敷設され、アメリカ西部はまたたく間に発展を遂げてゆきます。
ロサンゼルスは西に海、東、南、北に山を臨む、世界でも最大級の盆地のひとつであり、20世紀になって都市として飛躍的に発展しましたが、その発展の要因として、上記ゴールドラッシュの他、19世紀末の油田発見による石油化学工業の発達、第二次大戦中に急伸した航空機産業の発達、そしてハリウッドに代表される映画産業の発達などが大きいとされています。
自動車産業の発達に伴い、広い都市圏であるロサンゼルスを中心とする盆地は交通手段にマイカーは欠かせない存在となり、そのため、全米の他の都市より早くフリー
ウェー(高速道路)が整備されました。これに対し、市街交通手段として発展を続けていたパシフィック電鉄などの路面電車は、1930
年代から1960年代につぎつぎと撤去され、世界的に例のないほどの自動車交通偏重の都市となってしまったのでした。
ロサンゼルスとその周辺の交通について、それまで順調に敷設されてきた鉄道や路面電車網が自動車に主要な位置を奪われたことについて、自動車会社による陰謀説がありますが、現実にはこれは単なる都市伝説の一種であり、全盛期に郊外電車を独占的に経営したパシフィック電鉄の路線図を見てもそんなに細かい鉄道路線があったわけでもなく、ただ、自動車が庶民でも買えるようになったので、郊外の住宅地に居住する人が多くなり、それが定着、マイカーで生活する事が当たり前となっただけのようです。
さらに、貧富の差が激しい当地アメリカでは、電車やバスの路線を作ると、車が買えない貧困層が住みついてスラム化し、治安が悪くなって住宅の値段が下がると住民が嫌がり、自家用車で移動することを好み、バスや電車で通勤するのを嫌悪する傾向があるようです。
私がロサンゼルス郊外へ赴任した30年前は公共の鉄道やバスは未発達で、通勤は殆ど車だけといえる頃でしたが、当時は“スモッグ”という言葉がロサンゼルス生まれの流行語があったほどでした。それほど大気汚染が深刻でした。その後、地下鉄を主とするメトロや通勤列車がロサンゼルス市を中心にでき、かなり改善されてきていると思います。
ロサンゼルスは広域都市圏という単位でみると、人口は1千3百万人(広域都市圏のとらえ方で1千7百万人ともいわれる)でニューヨークに続く全米第二の人口を持つ大都市圏です。もともと、ロサンゼルスの高速道路網は人口700万人前後を前提として計画されており、それ以上の人口増加があると、渋滞が多発してしまうようです。
一度自動車利用を前提として都市を作ってしまうと、そこに鉄道を作ってもまだまだ前途多難の交通事情のようです。
河合 将介( skawai@earthlink.net ) |