世界のブレンドスパイス ケイジャン(アメリカ編)
今はもう無くなってしまったが昔、マリナデルレイのショッピングセンターの一角にアメリカ南部ニューオーリンズ風のレストランがあった。時々そこでジャズのライブをやっていた。そのレストランで食べたのが最初のケイジャン料理だった。ケイジャンスパイスとは、いくつかのスパイスをブレンドして味付けしたアメリカ南部の代表的な料理だそうだ。ちなみにケイジャンスパイスと言われるベイシックなブレンドスパイスはどんなスパイスがどのくらいの配合で使われているかというとカップ1/4
(作り置き用)を作る場合
オレガノ (小さじ1と1/4)、塩(小さじ2)、ガーリックパウダー(小さじ2)
オニオンパウダー(小さじ1)、カイエンペパーかチリパウダー(小さじ1)
パプリカ(小さじ2/と1/2)、赤唐辛子(砕いたもの小さじ 1/2)
オレガノ(小さじ1と1/4)、タイム(小さじ1と1/4)、黒胡椒(粗挽き 小さじ1)
これらをミックスして小さなガラス瓶に入れて調味料の棚にでも置いておくと、いつもの料理に飽きた時に一振りするだけでも違った味を楽しめるかもしれない。日本ではスパイスの量り売りが無いので最初はブレンド済みのものを買うのも手っ取り早いだろうけれど。
とにもかくにもケイジャンという言葉もその店で初めて聞いた。最初に注文したのはジャンバラヤというパエリア風のコメ料理、それにルイジアナ州で有名なガンボというオクラと豆と野菜が入ったスープ、メインはチキン料理。どの料理にもケイジャンのスパイスが使われていたと思う。思ったほど辛くは無かったけれどあまり印象には残らない味だったように思う。
ケイジャン料理で印象的だったレストランというとレドンドビーチにあるショッピングセンターの2階にあった店だ。名前がキラーシュリンプといってユニークなその名前が面白かったので友人と入ってみた。メニューを見たらメインのシュリンプ料理の1品のみ、後は付け合せにパンか麺かライスの3種類の中から一つを選ぶ。それにノンアルコールの飲み物がいくつかとデザートも1品のみ。野菜もオードブルも他の料理は何も無いのだ。あまりに素っ気も無いので拍子抜けしてしまった。本当にこれだけのメニューなのか裏をひっくり返して見ても表にあるメニューのみ。悩むほどチョイスが無いのでとりあえず、パンを選んで注文したらすぐに山盛りのパンが運ばれてきた。その量は大きなフランスパン一本ぶんぐらいあった。“食べ放題だから、いくらでも、どうぞ、おかわりもフリーです”と言われた。いくらパンが好きでもパンばかり食べるわけいかないし…と思う間もなくキラーシュリンプの主役の一品が運ばれてきた。大きな白い丼のような器にヒタヒタのスープとその中に大きなエビがゴロゴロ20匹ぐらい入っていた。あっけにとられている私達にウェイターの人は“これにパンを付けて食べると最高に美味しいのだよ”と自信あり気にパチッとウィンクして私達にアピールして見せた。
友人はビールが無いので落胆しつつ、私は少し後悔しながらもパンにスープを浸してエビを食べ始めた。ところが、そのスープがとてつもなく美味しかったのだ。期待していなかっただけに感動が大きかった。今まで食べたことの無い深い味わいのある独特なスープの味だった。スープが無くなる頃は器の底の方に沈んでいたスパイスが見えてきた。今考えるとカレー風味のクミンやセロリシード、ローズマリー、フェンネルシードも入っていたと思う。ケイジャンスパイスをベースにエビやチキンのスープストックが絶妙なバランスで作られた極上の一品料理だった。スープを作るだけで10時間もかかるのだそうで売切れたら店じまい。こっちが食べているのにイスやテーブルをさっさと、かたしはじめる時もあった。時々キラーシュリンプのその一品が食べたくなり定期的にテイクアウトをしたりもした。懐かしくなって調べてみたら今はもうレドンドビーチの店は無くなってしまったけれど今もマリナデルレイの方にはあるようだ。
それにしても、一発勝負というか一品勝負のこの店のメニューは誰が考えたのだろうか、いかにもアメリカらしい発想の店だ。
茶子 スパイス研究家 |