今日(12月16日)、日本は総選挙投票日です。日本の有権者の皆さんは明日の日本を担う代表を選択するため投票所へ足を運ばれたことでしょう。私たちのように海外で生活する日本人にとっても、日本の政治は無視できない大きな関心事です。日本の出来事は海外にいる在留邦人の暮らしやビジネスに直ちに反映するからです。今回の選挙はいろいろな意味で選挙の歴史に残る一日となったはずです。
海外に居住する私たち在留邦人も祖国への国政参加(選挙投票)が一定の条件のもとで認められています。この制度を「在外選挙制度」といい、これによる投票を「在外投票」といいます。日本の皆さんとの違いは、私たち在留邦人は事前に選挙人登録し、「在外選挙人証」の交付を受けること、投票日が日本より一週間以上早いことなどです。
私たちの住むロサンゼルス地域は12月5日(水)から9日(日)が投票日となり、日本国総領事館が指定したL.A.ダウンタウンの日米文化会館が投票所でした。私たち夫婦は12月7日(金)に一票を投じてきました。
「在外投票」にはこの「在外公館投票」のほか、「郵便等投票」、「日本国内における投票」があり、いずれかの方法を選び投票できます。
「日本から出て海外に住んでいるのなら、日本の心配をするより自分の住んでいる国のことを考えたら?」とか、「選挙の投票といっても、海外の人はどれほど日本の政治がわかっているの?百歩譲って、日本の政治がわかっていても、候補者の個人情報まで理解して投票できるの?」という意見も聞こえます。
日本の国政に参加できる在留邦人はあくまで日本国籍保持者(私の場合、アメリカ永住権)であり、日本国民です。日本にいる皆さんより海外という現地でその地の生の声を聞き、日米の架け橋たらんとする気持ちは日本の皆さんに決して劣るものではないと自負しています。
また、今やインターネットはじめ通信手段の発達はめまぐるしく、地球上どんな辺鄙な地域でも多くの情報を得られる時代です。情報が溢れかえり、収拾がつかないような日本国内よりかえって海外のほうが奥行きのある情報を整理できることもありえます。 |
インターネットで調べた外務省統計によると、日本から海外へ出ている在留邦人の数は約75万8千人で、日本の人口でいえば、島根県(717千人)、徳島県(785千人)、高知県(764千人、いずれも2011年数値)に匹敵する数です。因みに在留邦人数の国別では、アメリカ合衆国が第一位(388千人)、都市別ではロサンゼルスが69千人でトップとなっています。
海外に滞在する私たちのような日本人が日本の国政選挙に参加(投票)できるようになったのは12年前の2000年からでした。それまでは日本国憲法上はっきりと国民固有の権利として明記されている国政選挙への投票権ですが、実際は「公職選挙法」という法律が海外に住む日本人の投票のことを規定してくれていなかったので、日本国外の日本人は選挙で投票したくてもさせてもらえなかったのです。
《在外投票実現の歴史》
19年前の1993年12月、私たちロサンゼルスに住む有志仲間は、「日本国憲法が認める国民の参政権」の行使をめざして「海外在住者の投票制度実現をめざす会」を発足させました。
私たちはこの運動を通じて、署名運動、政府・国会への請願、日本弁護士連合会へ人権救済申し立て、裁判所への違憲訴訟、などを行い、またその後世界各国の有志との連携でワールドワイドなネットワークもつくり活動しました。その結果、運動開始から5年後の1998年4月に公職選挙法改正案が衆参両院で可決成立しました。そして私たち海外在留邦人も2000年6月の衆議院選挙から投票出来るようになったのです。
ところが、このとき認められたのは衆参両院選挙ともに比例区のみであり、まだ選挙区選挙への投票は認められませんでした。これではまだ憲法で認められた国民平等な参政権に違反する状態であり、私たちはこの違憲(憲法違反)状態をただすため原告団を結成し裁判所へ違憲を訴えました。
そして2005年9月、最高裁判所大法廷は私たち原告団(13名)の訴えを全面的に認める判決を下し、それにもとづき日本の国会も公職選挙法を改正し、そしてその改正公職選挙法による初めての選挙が2007年の参議院議員選挙でした。 |
アメリカをはじめ、海外各国に在留する日本国籍を有する海外有権者は前記のとおり75万人を超えるといわれています。
ただ、まことに残念ながら、日本の外務省の発表によると、これら海外有権者の選挙人登録者も登録者による投票率も低調であり、過半数にも程遠い状況のようです。最終的な有権者(有資格者)数に対する投票率は、10%にも満たないようです。
このように海外在住の日本人による国政選挙への参加(投票)が低調な理由は、主に複雑な選挙人証登録手続き、投票所と投票期間・方法、選挙広報周知不足など、日本国内の有権者にくらべたいへん不利な条件下にあることがあげられます。これが在外投票率の低迷の主因となっているのです。
祖国の政治に関心の高いはずの海外在留邦人が日本の国政選挙に参加しづらいのは問題です。例えば日本全土より広い当地カリフォルニア州で投票所はロサンゼルスとサンフランシスコの2ヶ所だけであり、郵便投票が認められるようになったとはいえ、投票率の向上には限度があります。したがって電子投票の実現など制度の工夫が必要といえましょう。また、将来的には海外選挙区の創設も課題として残ります。
日本の国は貿易で成り立っています。日本の存亡は如何に世界と良好な関係を結び、自由貿易を続けるかにあるといっても過言ではないでしょう。国際世論を味方につけるため、海外に住む日本人、日系人は日本の動く広告塔として世界各地で頑張っています。
国際交流が頻繁になり、多くの外国人が日本を訪れているといっても、まだまだその人数は限られたものです。そんな海外の人たちが日本を判断するのは身近にいる日本人や日系人をみて判断するしか方法がありません。良きにつけ悪しきにつけ、海外で生活する日本人の言動が、そのまま日本の評判に直結するのが現実でしょう。
そんな海外からの見方を祖国日本へ伝える役割と責任を果たすためにも、私たち海外在住者が日本の国政選挙へ参加する意義は大きいと思っています。政治が駄目だという前に何か自分たちで出来ることはないのかと第一歩を踏み出すのが民主主義の原点です。その第一歩の最大の手段が投票であり、当地ロサンゼルスにおいて一人でも多くの在留邦人が投票を行うよう運動を続けたいと思っています。
河合 将介( skawai@earthlink.net ) |