パソコンの普及により、近頃の私たちにとって文字は画面に打ち出せばよく、紙の上に直接書く機会が少なくなりました。私自身も漢字は読めても、書く能力が目に見えて衰えているのを痛感します。これは加齢によるボケだけではなさそうです。
日本では最近、漢字ブームのようですね。漢字や漢字検定に関する本もあふれていると聞きました。私たち夫婦は日本語のテレビ番組を楽しむため、しばしば近くの日系レンタル・ビデオ店へDVDを借りに行きますが、そこにも漢字に関するクイズものがたくさん並んでいます。
パソコンで文字を仮名またはローマ字で打ち込み、転換すればどんな難しい漢字でも一瞬でよびだせ、書き方を覚えなくとも漢字まじりの文章を作れるし、知らない漢字まで目につくようになるので、かえって漢字が身近になったこともブームの一要因なのでしょうか。もしそうだとしたら、書く必要がなくなったパソコン時代だからこそ逆に漢字にふれる機会が多くなったということになり、おもしろい現象といえそうです。
私が趣味で励んでいる詩吟は、一言でいえば「漢詩に独自の節をつけて吟ずるもの」であり、漢字の詩があってはじめてできることです。中国や日本の偉人、賢人や詩仙・詩聖たちが詠んだ詩の漢字一文字、一文字に作者の魂が込められているように感じます。
私の通う詩吟クラスでは、先生(師範)が黒板に書いてくれる、その日教材とする漢詩を私たち生徒が自分のノートに書き写すことからはじまります。この書き写しにより、これまで気にもとめなかった文字の知識について学ぶことがしばしばあります。
繰り返し文字(例えば「清明の時節 雨紛紛」)の中の「紛紛」を私たちはよく「紛々」と書くことがあります。同じ文字を繰り返すとき、前の字に続けて「々」と書くのです。この「々」とは、はたして文字なのだろうか、もし文字(漢字であろうと、国字であろうと)であるならばこの「々」一文字ではなんと読むのだろうか、クラスで話題になりました。
この疑問が話題になったとき、私も恥ずかしながら正解を知りませんでした。自宅へ戻って早速、パソコンで調べ、ようやくある程度納得のゆく解答を見つけることが出来ました。
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まず、パソコンのフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によると、この種の字は「おどり字」とよばれ、主に日本語の表記で使用される特殊記号の一つなのだそうです。ほかに「ヽ」、「ゝ」などがあり、「おどり」、「繰り返し符号」、「重ね字」、「送り字」、「揺すり字」、「重字(じゅうじ)」、「重点(じゅうてん)」、「畳字(じょうじ)」などとも呼ぶことがあるようです。
中国でもこの種の記号は昔(殷の時代)からあったそうですが、現在公式に用いているのは日本語だけとの説明でした。尤も、台湾では日本統治時代の遺風の「々」が使われることがあるようで、例えば中国語の「謝謝」を「謝々」と書くことがあるようです。でも公式の文書では用いないようです。
上記のとおりで、「々」は文字ではないので読み方というものはなく、文部省は「呼び名」として「同の字点」と表現しているとのこと、文部省教科書局調査課国語調査室作成の、「くりかへし符号の使ひ方〔をどり字法〕(案)」に記しているそうです。これによると、「ゝ」は「一つ点」、ひらがなの「く」の伸びたようなのが「くの字点」、JISにはないと思いますが、「ゝ」を二つ重ねたようなのが「二の字点」、「〃」が「ノノ字点」となっているとのことです。
日本人の場合、名前に「々」が使われているケースがありますが、(例えば「佐々木」、「奈々子」など)これは,昭和56年9月に出された法務省通達により使用が認められているということでした。 河合将介(skawai@earthlink.net) |