龍翁余話(86)「古きを訪ねて」<その2>
親友Cさん、Sさん、翁の3人による「古きを訪ねて」の一日ドライブ。前号では都立小金井公園にある『江戸東京建物園』と“昭和の町”青梅市の『赤塚不二夫記念館』、『昭和レトロ商品博物館』、『昭和幻燈館』を紹介した。今号は次なる“古き”を訪ねるのだが、その前に腹ごしらえ。実は、翁の友人で青梅市在住のK君から「青梅に来られたら是非、“パン工房・木の葉”でランチを」と薦められていた。CさんとSさんにも“義理試食”をお願いして“木の葉”へ。オープンは昨年の4月、まだ木の香りが漂うロッジ風のベーカリー&カフェ(写真:左)。3人はビーフシチューを注文、テーブルに運ばれたバスケットの中の数種のパンは食べ放題。確かに美味い。更にビーフシチューの味がまた格別。3人とも大満足のランチだった。K君に感謝。そしてもう1つK君のお薦めは『聞修院』(曹洞宗の禅寺)。“木の葉”の直ぐ近くにある。
梅雨に濡れた山門(写真:中)をくぐる。境内に映える深緑が静寂とあいまって一段と厳粛な雰囲気を醸し出している。歴史を感じさせる本堂(写真:右)の庇(ひさし)の下に『愛』の文字を見る。一瞬、翁がはまっている『天地人』の主人公・直江兼続の兜の前立ての『愛』を思い出す。寺の由緒を調べた。創立は天文年間(1523年〜1555年)、開基は黒沢蔵之助とあるが、どういう人物か翁は知らない。想像するに、この地域の名が“黒沢”だから、多分、当時の村長(むらおさ)だったのではないか?寺名も正式には『黒沢山・聞修院』という。青梅有数の古刹ではあるが、“寺は人と人との出会いの場、いろいろな思いを発信する場でありたい”という考え方から、坐禅の会、御詠歌の会のほか、各種の集会、時にはコンサートも催すという。庇の下の『愛』は、ここに集う人々への仏の愛か・・・
青梅を離れ、車は順調に八王子へと向かう。カーナビに頼るまでもなく、Cさんは道順をよく知っている。実は彼、数週間前に(目指す)『八王子城跡』へ行って来たばかり。口には出さないが、普段から思いやりのあるCさんのこと、“歴史好きな翁を、この城跡に案内してあげよう”と思って誘ってくれたのだろう、と翁、勝手にそう受け止めている。
国史跡『八王子城跡』――八王子市街地の西方、高尾山北側の広大な山地に位置する。資料によると、関東地方に勢力を張っていた北条氏最大の支城(本城は小田原城)だった。築城は天正12年(1584年)ごろ、城主は北条氏照(1540年〜1590年)。豊臣秀吉の小田原攻めに際し、前田利家軍、上杉景勝軍の攻撃を受け、わずか1日で落城、時は天正18年(1590年)6月23日、時代こそ違うが、何と翁たちが訪れた日の7日後のことである。
古道(写真:左)を歩む。上杉景勝・直江兼続主従もこの道を踏んだか?それにしても大河ドラマ『天地人』、原作にはない余計な場面が多くてダレル。脚本も演出もイマイチ。イメージ違いの妻夫木(兼続役)も気の毒。でも翁は毎週視ている。火坂雅志著『天地人』や藤沢周平著『密謀』に描かれている偉丈夫の兼続が好きだから・・・などと思いながら、城山川に架けられた曳橋(写真:中)を渡る。橋の右側が虎口(城の入り口)だ。石垣(写真:右)は当時のものを利用して再現した、と資料にある。御主殿跡はただの広っぱ。帰りがけに管理事務所に立ち寄った。八王子市教育委員会のHさんの説明によると「日本百名城の1つであり、16世紀後半のベネチア産レースガラス、明の時代の中国産陶磁器などが数多く発掘された。どんなルートで北条氏照にもたらされたか、現在研究中です」とのこと。それらの貴重な遺物は市の郷土資料館に展示してあるそうだが、それはまたの機会に・・・
八王子市の中心から神奈川県や山梨県へ延びる陣馬街道を走る。3人の会話が止まる。Cさんは運転、Sさんと翁は、車窓を流れる山間(やまあい)の素朴な自然美に目を奪われる。
あっという間の20分、着いた所は『夕焼け小焼けの里』。恥ずかしいが翁、ここが日本の代表的童謡“夕焼け小焼け”の発祥地とは知らなかった。『ふれあいの里』ハウスの前にある案内看板を見ると、キャンプ場、子ども牧場、ギャラリーなど結構な施設が整っている。だが、肝心の、作詩者・中村雨紅(うこう)の記念碑はどこだ?Cさんが近くの人に訊いてくれた。対面の山の中腹にある、とのこと。「ちゃんとした案内板くらい建てろよ」とブツブツ言いながら翁、Sさんと2人で山を登る。7〜8分登った所に、荒れ放題の『宮尾神社』、調べたら500年以上の歴史をもつ由緒ある神社だ。しかも詩人・中村雨紅生誕の地、彼は宮司の次男として生まれた(1897年〜1972年)。境内の片隅に、これまた文字が消えかかった『夕焼け小焼けの碑』がポツン。Sさんも呆れて「何?これ」あまりのお粗末さにカメラのシャッターさえ押せなかった。行政よ、住民よ、雨紅先生の“おかげ”を忘るべからず。里の守り神(神社と碑)をもっと大切にしなさい。
内容の濃い有意義なドライブであった。Cさん、Sさんの友情、青梅のK君の親切、「古き」の存続に尽力する関係各位に感謝。梅雨空に夕焼けは見られないが♪“夕焼け小焼け”を口ずさみたい童心に返っての帰路であった・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |