龍翁余話(38)「テレビ視聴率」
民間放送であれNHKであれ、番組を製作し放送する側は常に視聴率(ラジオは聴取率)に一喜一憂する。皆さんご存知のように視聴率とは、あるテレビ番組を、そのエリアの住民の何%が視聴したかを表わす推定値であり、世帯視聴率と個人視聴率があるが、一般的には世帯視聴率を指す。推定値、ということは、絶対値ではないからデータに誤差が生じても仕方ないし、不正操作に弱いという指摘もある。この脆弱性を悪用しモニター世帯を買収したという、某テレビ局社員による、いわゆる“視聴率不正操作事件”まで起こしてしまった例もある。つまり、この視聴率というヤツ、学術的・社会的には何ら評価されるものではないのだが、それでもテレビ局(番組担当者)は、放送効果を知る手がかりとして視聴率に神経を使う。「いい番組を作れば視聴率は上がる」という本来的放送人としての良識(モラル)に基づいて努力しているテレビマンがいる一方、広告効果を高める(スポンサーを喜ばせる)ためだけの“視聴率稼ぎ”に血眼(ちまなこ)になっている製作者も少なくない。結果として興味本位、大衆迎合の低俗番組が増える。プライバシーの侵害、放送倫理違反、不必要な刺激描写、やらせ、模倣などが後を絶たない。さように視聴率とは、放送する側、見る側の人格、ひいては社会を狂わせかねない“魔物“なのである。
その“魔物”を生み出しているのがビデオリサーチ社という調査会社。断っておくが、翁はけっして同社を批判するものではない。“魔物化”は結果現象(使う側の問題)であって、むしろ、少ないサンプル(わずか600サンプル)から、いかに価値性の高い数値を導き出すかに傾注している同社の企業良心に敬意を表する。そのビデオリサーチ社は『テレビ視聴率日報』(通称:日報)というレポートを調査翌日に発行しており、最新の視聴率データをテレビ局などのクライアント(顧客)に提供している。日報には、番組平均世帯視聴率、前四週平均世帯視聴率、終了時世帯視聴率、前四週終了時世帯視聴率、番組視聴占拠率などのデータが記載されている。同社設立(1962年)当初は、社員が無作為に選んだ家庭に直接伺い、視聴した番組や時間を聞き込む方法をとっていたが、後年には無作為に選んだ家庭に視聴率調査用の装置を設置し、その装置で一定時間に視聴しているチャンネルを記録、電話回線を通じてビデオリサーチ社に送信される方法に変わった。なお、装置の詳細や調査対象となる家庭の選出方法などは非公開となっており、調査中および終了後も調査方法について秘匿するよう誓約させている。(選ばれた対象家庭は2年で交替)
ところで、テレビ業界には“0.1%の泣き笑い”という言葉がある。つまり、わずか0.1%でも放送効果(製作者の力量、民放の場合はスポンサー評価、番組の継続性)に関わる重大数値であるからだ。かつて翁もイヤというほど“泣き笑い”を経験したものだ。ちなみに1%単位の世帯数(および人口)は、(2007年10月現在で)関東地区は171,360世帯(402,390人)、関西地区は68,250世帯(160,020人)、名古屋地区は35,930世帯(91,430人)、その10分の1(0.1%)といえども関東地区の場合は約1万7000世帯(約4万人)だから、けっして軽視出来るものではない、という受け止め方は理解出来る。しかし、視聴率に表われる数値の中身には、正確性を欠く要素が多々ある。60分番組を、1分も欠かさずに見たか、途中で他のチャンネルに替えなかったか、途中でテレビを消してしまわなかったか、あるいは家族全員が見たのか、などの疑問が残る。それを確かめるすべはない。このように視聴率とは誤差・不明確を前提に(納得の上で)参考にしているのがテレビ局(民放の場合はスポンサーを含む)の実情なのである。
さて、過日、テレビ東京・『ガイアの夜明け』担当チームによる祝賀パーティに招かれた。
祝賀の主旨は、2007年12月18日放送の『あれから10年〜山一・拓銀の社員たちは今〜』
がギャラクシー賞(放送批評懇談会が、優秀な番組・個人・団体に贈る賞)奨励賞を受賞したことと、今年6月3日放送の『世界を救うニッポンの技術〜企業が果たす社会貢献とは』が『ガイア』始まって以来の最高視聴率(10.7%)を獲得したことへの、お祝いの会である。『世界を救う・・・』は、実は翁たちの“企画集団APP”の企画によるものだ。担当プロデューサーから感謝の言葉を頂戴したことは勿論嬉しかったが、「我がチームは、視聴率至上主義に走らない。良質の作品を創れば数字はおのずからついてくる」の某幹部のスピーチに、翁と、同席した(APPメンバーの)Kさん(元テレビ東京・演出局長)は、どれほどの感動を覚えたことか。二人、顔を見合わせ頷き合い、熱い拍手を贈った。まだまだ(ガイア・チームのような)“社会性・教育性・文化性・人間性”を重んじるテレビマンたちが健在していることに、翁とKさんは、この上もない頼もしさと安心感を抱いたものだ。とは言え、多くの人に見て貰えるような番組を企画したい、は、翁たちAPPメンバーの共通した思い。テレビに関わっている間は、“0.1%の泣き笑い”から逃れられない宿命なのかもしれない、っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。 |