7月10日(日本時間11日)、サンフランシスコのAT&Tパークで行われた今年(2007年度)の米大リーグ野球、第78回オールスター戦でイチロー選手は球宴史上初のランニング本塁打を含む3打数3安打2打点と活躍し、MVPに選ばれました。
イチロー選手の大活躍とMVPの栄誉、実に見事でした。当日夜の米国主要テレビ各社がニュースのスポーツ欄で真っ先にこれを報じ、翌日の新聞は彼の快挙を大きく取り上げていました。
また、イチロー選手の陰に隠れましたが、私たちの地元ロサンゼルス(ドジャース)の37歳斉藤隆投手もこのゲームでスター選手を相手に1回を見事に三者凡退に仕留め、特にロサンゼルスでは大喝采でした。
今回の米大リーグ・オールスター戦における日本人選手の活躍に対し、私の周囲のアメリカ人からいくつもの賞賛の言葉を聞きました。
野球と関係ない私まで賛辞を受け、なにか晴れがましい思いをさせてもらいました。イチロー選手たちのおかげで米国における日本と日本人の位置が高くなったことは確かです。
今回の日本選手の活躍をみながら、私は以前読んだ本(「祖国へ、熱き心を」高杉良著)に書かれていた水泳の古橋選手たちにかかわる古いエピソードを思い出しました。
それは今から58年前(1949年、昭和24年)のことです。当時の日本は敗戦後の占領下におかれていた頃であり、オリンピックにも参加が認められていませんでした。
当時、日本の競泳界に彗星のごとく現われ、世界の記録を次々と更新していた古橋広之進選手や橋爪四郎選手ほか日本水泳チームがロサンゼルスで開催された全米水泳選手権に特別に参加させてもらうことになりました。
ロサンゼルスではフレッド・和田氏ほか日系人商工会議所などに世話を受けながら全米水泳選手権大会に臨んだ日本チームは大活躍します。特に古橋選手は千五百メートル自由形競泳予選で当時としては考えられない驚異的世界記録(18分19秒0)でダントツの1位となったのです。
また同決勝は古橋、橋爪、田中の日本勢三選手が上位を独占してしまいます。そして結局日本チームは3日間で自由形6種目中5種目に優勝、9つの世界新記録を樹立し、さらに団体対抗戦でも圧倒的な得点で優勝を飾ってしまいます。
この大記録は全米の新聞に大きく報道され、それまで日本人を「ジャップ」と蔑んで書いていた新聞が翌日からは「ジャパニーズ」と書くほどになったそうです。古橋選手たち日本チームが米国における日本人観を変えてしまったのです。特に古橋選手に対して彼らは「ザ・フライ
ングフィッシュ・オブ・フジヤマ(フジヤマの飛び魚)」と呼び絶賛しました。
それまで「ジャップ」と呼ばれていた在米日系人が一夜にして「ジャパニーズ」になり、胸を張って街を歩けるようになったのです。 |
2007年の今日、私たちはもはや表面立って「ジャップ」と呼ばれることはありません。しかし米国における日本と日系人の位置は必ずしも白人社会と百パーセント対等であるとはいえない面も残っています。
ただ、米国の良いところは、相手が誰であろうとも優れた点は素直に認め、賞賛してくれるところです。今回のイチロー選手に対する扱いがそれを物語っています。
今回のイチロー選手たちの快挙は私たち在米日本人にとって百万の味方であり、私たちに勇気と誇りを与えてくれました。
河合将介(skawai@earthlink.net) |