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石川版)に北山吉明さんという形成外科医の方が書いたエッセイ集の中に「幸せと脳科学」というものがあり、ヒトの幸せのメカニズムについて記述され、とても興味深く読みました。
北山氏のこのエッセイを以下に一部転記させていただきます。次のようなくだりがありました。
(前略)ところで、幸せという情動を、脳科学の立場から説明すると、行動の報酬として脳内に分泌されたドーパミンが引き起こす化学反応、となる。分泌されるドーパミン量に比例して、幸福感に強弱が出来る。(中略)
このように科学の言葉には、うそはもとより、思いやりも建前もない。事実のみをふりかざしストレートに切り込んでくる。心の奥底に大切にしまっていたものを、白日の下にさらすような非情さがある。その科学の言葉が年を追うごとに身の回りに増えていくからやりきれない。
味気ない真実など知りたくない、と思うばかりである。僕らはもっと曖昧(あいまい)でロマンチックで切ない、あの情念の世界に浸っていたいのだ。
ダイヤモンドを炭素と言うよりは「アフリカの星」と呼ぶほうが心が躍る。(中略)もし、心がわくわくしたら、「今ドーパミンが出てる」なんて思うよりも「なんだ、この気持ちは!」と驚くほうが、もっと多くのドーパミンが出るからよいと思う。
化学物質も大切だが、その分泌を促す繊細な感受性を忘れてはならない。周囲の出来事をいち早くキャッチする心のアンテナを研ぎ澄まそう。豊かな人生を育てるのは、不可思議な人間の心そのものである。 |
ひと昔前に一世を風靡した本に『脳内革命(春山繁雄著)』という書物がありました。だいぶ前に読んだ本なので私の記憶が明快ではありませんが、この本の中には『私たちが、楽しいとか幸せと感じるのは“β―エンドルフィン”という快感ホルモンが分泌するからであり、したがって体や脳を健康に保ち、楽しく生きる為には“β―エンドルフィ
ン”を放出させるよう人生の目的を見つけ、それに前向きに取り組むことである』といったようなことが確か書いてあったように記憶しています。
多分、北山先生のいう“ドーパミン”と春山先生の“β―エンドルフィン”とは同じ、または関連する物質ではないかと思います。
今回、私が北山吉明氏のエッセイに興味を覚えたのは、氏が医者という科学の先端の立場から味気ない真実を解説しながらも、私たち人間の“喜び、幸せ”をヒトの心に根ざした情念の世界として捉え、人の心を大切にしたいと述べてところです。
私は健康管理のために毎日一時間、トレッドミル(ルームランナー)を使ってエクササイズを実行しています。実行前は面倒臭さや気だるさなどで毎回ためらいます。
それを乗り越え、嫌々でも無理してエクササイズをはじめると、はじめは疲れと息切れで苦痛を感じますが、30分を経過する頃から苦痛が低下し、徐々に快感が出てきます。さすがに一時間終了すると汗にまみれた体力は限界を感じますが、精神的には目的を達成した快感に浸っています。
私が日本にいた若い頃、冬を除いた会社の休日はほとんど信州の山か高原を歩いていました。高い山を登っている時は「なぜ、こんな苦労して登山などしているのだろう。もう金輪際こんなことはやめよう」と思ったことはしばしばでした。
でもまた次の休日になると足は自然に山に向かっていました。これも“ドーパミン”だか“β―エンドルフィン”のなせるわざと言えばそれまでですが、私の青春の思い出として大切な宝であり1ページとして心に残る宝といえます。
私も科学の真実は真実として尊重しますが、喜怒哀楽の感情はやはり崇高な心の問題として理解し、大切にしたいと思う一人です。
河合 将介(skawai@earthlink.net)
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