日本からのニュースによると日本首都圏各地の誘致合戦が繰り広げられていた新東京タワー建設地は条件付ながら東京・下町の「墨田区押上・業平地区」に決定されました。
地上波テレビのデジタル化に伴い、現在の東京タワーに代わる首都圏向けの電波塔として高さ610メートル、2008年半ばに着工し、3年後2011年春の完成なのだそうです。
電波塔としてはカナダ・トロントにあるCNタワー(553メートル)が現在世界一ですが新東京タワーはこれを大きく上回ることになります。そして高さ350メートルと450メートルには展望施設が設けられる計画になっています。
建設予定地は東京都墨田区押上1丁目にある東武鉄道伊勢崎線の業平橋駅と押上駅に隣接する貨物操車場跡地であり、東武鉄道が500億円をかけ建設し、テレビ局が「店子」として使用するのだそうです。
墨田区押上1丁目とはまさに私の生まれた実家の住所です。我が家のすぐ近くで、東武電車の貨物駅や操車場のあったところで、私がまだ“ワルガキ”の頃の遊び場で、いつも遊び回っていたところです。東京・下町の荒廃の中で育った私にとって、時代の流れを感じます。あんなところが近い将来、日本の新名所に? と思うと不思議な気持ちです。
東京・下町は地盤もやわらかく、そんなものを作って本当に大丈夫?とも思い、またこのニュースを知った友人から「そんな高いものを立てて、羽田、成田などの飛行に悪影響はないの?」と聞かれましたが、その辺は専門家が当然調査済みなのでしょう。
「観光客誘致の起爆剤に」と各地で誘致合戦が繰り広げられてきただけに、この日の候補地決定の報に墨田区関係者は歓喜し、山崎(墨田)区長は「誠によろこばしい限りであり、心から歓迎の意を表する。・・」とのコメントを表明していました。私も生まれ故郷が大きく発展し、世界の墨田区になることに心躍る思いです。
でも一時の興奮からさめて平常心に戻って思うに、新タワーの完成で東京・下町の伝統の多くが消えるであろうことが容易に想像され気になります。
東京・下町は情緒の残る場所です。開発は大いに結構ですが、これで下町人情や風情がなくなるおそれがあり、少々淋しいことでもあります。
私は毎年5月から6月にかけて日本へ一時帰国しますが、昨年は浅草にあるホテルを宿としました。浅草は私の生まれ育ったところと隅田川をはさんだ対岸です。そこ(浅草)にひと晩泊まっただけで何か懐かしさがこみ上げてくるのを感じたのには驚きでした。一泊した翌日、浅草の裏道を歩いてみました。ありました、ありました。狭い道に鉢植えの花木を並べ、人情溢ふれるたたずまいは昔を彷彿とさせてくれました。下町風情がこれほど強烈に私を感動させてくれるものだと初めて知りました。
少なくなりつつあるそんな下町風情が新東京タワーの出現でさらに消滅へ向かうのでしょうか。
【追伸】現東京タワーは昭和33年に完成した高さ333メートルのタワーです。建設工事期間中はちょうど私の学生時代で、東京から今のJ.R.横須賀線で横浜まで通っていました。日々タワーが上に伸びてゆくのを車窓から眺めていました。好奇心旺盛で新しいものが大好きだった私はタワーが一般公開された直後に友人たちと行き、展望台からの景色を楽しんだのを覚えています。特に遠くに富士山が見えいたく感動したことを昨日のように思い出します。
新東京タワーが完成し一般公開が始まったら、いろいろ言いつつも結局、真っ先に展望台に登ってみたくなる私です。
河合 将介(skawai@earthlink.net)
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