― 日米の市議会比較 ―
神戸大学経営学部一回生
亀谷 枝里子
今回の研修では、私の初めての海外旅行だったこともあり、様々な面においてカルチャーショックを受けた。自分に最良の仕事を見つけるまでは職場を転々とするアメリカ人。野球場の土産物売り場で国歌斉唱中に店員に話しかけた時、彼が人差し指を唇の前で立てた事に見られるように、国旗と国歌をとても大事にする国民だった。トーレンス市議会を訪問したときには、市民が主体的に働いて、自分たちの住む地域をよりよいものにしていこうとしている点が日本との大きな違いだと感じた。以上が、今回の旅行で私が感じたアメリカに対する感想の総括だ。
これらの中でも特に印象深かったのは、アメリカの市民が積極的に地方自治に参加していたことだ。そこで、日本の市議会とアメリカの市議会とに焦点を絞り、この二つを比較してみた。その結果、次の2点が日本の市議会制度の問題点ではないかと考えるに至った。
@市民が積極的に市政に関わらないこと。
A市民が市政についての情報を得にくいこと。
日本と米国では市議会の制度の違いや、価値観の違いもある。加えて市町村の規模が圧倒的に日本の方が大きい。そのため、先に述べたトーレンス市議会という組織の制度をそのまま取り入れることは不可能だろう。以下では日本の市議会の制度を踏まえ、日本なりのよい議会の実現のための施策について考察してみた。
◆問題@について
<米国の場合>
トーレンス市議会を訪問したときには市民が市議・市長に対し、意見・批判・請願を直接に訴える場が設けられており、90分ほどの間に十余人の人達が立て続けに壇上に上った。そこでは全員が意見を述べる前に自分の名前・住所を記入したフォームを読み上げて所在を明らかにし発言者箱に入れる。傍聴に訪れた人達の人数の多さや、その立て続けに質問をする様子からも、トーレンス市民の市政への関心の高さが窺えた。
アメリカでは住民投票で自治体をつくると決議してはじめて自治体ができる。つまり市民がそう決議しなければ、自治体のない地域に住むことになる。「領域をもった全員加盟制のNPO」それが自治体であるというイメージだという。
先に述べたトーレンス市議会で、私が最も感銘を受けたことは、市民が責任を持って発言をするための制度が有効に機能していることだ。顔と名前を見せて意見を述べるからには、批判を受けることもあり得る。これが、皆真剣に考え抜いた上で意見を表明することの一因となっているのだろう。自分がそこまで自信と責任をもてない意見であれば、政策にも反映されにくいのでは、とも思えた。また、トーレンスの人口は約13万5000人、それに対して市会議員は市長を含めて7人。日本の松江市の場合には、約14万8600人の人口に対して議員定数は34人だ。トーレンス市では、市民が積極的に議論に関わるから、比較的少ない議員数でも議会が成立するのだろうか。
<日本の場合>
先日、松江市議会の定例議会を傍聴した。アメリカの地方自治制度以前に、日本の地方自治制度について殆ど知らないと自覚したからだ。議会の前に議事の内容を調べておいた方がいいだろうと思い、インターネットで調べてみたが、そのような資料を得ることはできなかった。(これは私の検索方法がまずかったため。実際には松江市役所のホームページ内に、九月定例議会の議案は掲載されていた。)直接市役所に出向いて聞いてみても、一般向けの資料は当日にならないと配布できないという事だったので、職員用の資料をいただいた。議会当日には、市議が市長に対し、その市政についての反対意見や賛成意見の表明や、提案をする一般質問が行なわれていた。その内容は多岐に渡っていたので、専門の職員をおかない限り、その内容を市民に十分に理解させる事は出来ないだろうと思った。
これらのことから考えると、松江市議会の問題点は、市民にとって市議会が身近なものではなく、不満や要望があってもそれを実際に訴えることが少ないということにあると思う。以下に身近な例を挙げる。
松江市民の多くは市内での移動手段として自転車を利用する。だが、市の中心部には駐輪スペースがなく、やむを得ず駐輪禁止区域に駐輪することになってしまう。何か対策を講じて欲しいと思っても、その訴える方法が分からない。それを調べてまで訴えようとはしない。日本の市議会でも請求権を行使すれば、自分の考えを表すことは可能だ。しかし、私も含め一般市民の殆どが、それを行使したこともなければその手順も知らないのが現状だ。地域への帰属意識を高め、その地域をより住みやすいものにするために、市民は積極的に市政に関わろうと、市は市民にとって市政がより身近なものになるように努力すべきではないだろうか。
その解決策のひとつとして、町内会単位でミニ議会のようなものを開くことを提案する。より身近な町内会での意見交換や、意思表明はし易いだろう。そして各町内会の代表者が年に1、2回ずつ市議会に出席し、そのミニ議会で出された意見をまとめて、市議会で訴える。その際、町内の過半数が賛成する意見についてはその町内会の意見とするが、個人の意見もその個人名を明らかにして紹介する。こうすることで、意見を表明するものに責任をもって発言するよう促すことが出来る。そして市長や市議は市民がなにを本当に求めているかを知ることが出来るし、市民も市政への関心が深まる。
◆問題Aについて
<米国の場合>
人口31万9千人の、東京品川区の議員の月給は616,000円で、これに加えて毎月政務調査費等として、190,000円が支払われる(2002年)。一方、トーレンスの市会議員はそれだけで生活できるような報酬は得ていない。トーレンス市長の月給は100ドルだという。そのため各自が自分の職業を持っていて、市議会は毎週火曜日の夜に開かれる。この時間帯であれば、市民も仕事を終わってから参加できる。また市議会を訪問した際に伺ったお話では、市議会の様子はケーブルテレビで生中継されており、議会終了後も繰り返し24時間放映される。この二つのことにより、市政がより市民に身近なものになっている。自分たちの街は自分たちで作り上げてゆく、そのためにみんなが参加できる仕組みを考える。市長を中心に傍聴席の市民に向かって扇型に配置された市会議員の議席の配置が、市民に開かれた市議会を象徴していた。そのような地方自治のシステムがアメリカの民主主義を支えているように思えた。
<日本の場合>
先に述べた松江市の定例議会は午前10時に開会した。この時間帯には仕事を持つ人は殆ど行くことができないだろう。現に私が傍聴に行った日は7人ほどしか人がいず、しかも彼らの殆どが市役所の職員のようだった。いつ、どのような議題が審議されるかをインターネット上に掲示し、傍聴を希望する人数が多い日は夜に会議をするなどの工夫が出来ないだろうか。
幾つかの職場で経験を積んだ後に一生働く場所を決定し、母国に対する誇りを持ち、それでも権力に対する疑いから市民は自分自身の意見を持つ。これが今回の研修を通して感じたアメリカの印象だ。こういった仕組みや精神があれば、日本も私自身ももっと前向きに元気になれるのではないかと思う。これらのことを実現させるためには、経験を積むこと、何か一つの分野で人より秀でること、及び自分の頭で物事を考えることが必要だと、この研修を通して改めて痛感した。
最後に、今回私にいろんなことを勉強するチャンスを与えて下さった関西クラブの皆様、訪問を受け入れて下さった企業等の皆様に心からの感謝を申し上げます。
どうもありがとうございました。
参考文献
URL www.systemken.org/geturei/07.html
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